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ボドゲの面白さを式にする

2026.08.08

「ルールは簡単なのに、奥が深い」。ボードゲームの褒め言葉として、これ以上のものはたぶんありません。僕らを含め、多くのデザイナーがそういうゲームを作りたくて唸っています。

ところで最近、この「奥が深い」に理屈の名前をつけた論文が出ました。AIの研究者たちが書いたもので、本来はAIの学習データについての話なんですが、読んでいて「これ、ボドゲの話では?」となったので紹介します。

「ぜんぶルールに書いてある」問題

情報の理論の世界では、長らくこう考えられてきました。「囲碁のルールは1ページに収まる。だから囲碁のすべては、その1ページに含まれている」。

無限に賢い存在にとっては、定石も名局も、ルールから計算すれば全部出てくるもの。だから棋譜を千局並べて研究しても、手に入る新しい情報はゼロ — 理屈の上では、そうなってしまうんです。んなわけあるか。

そう、実感と合わないですよね。人間はルールを読んだだけでは囲碁を打てるようにならない。何百年もかけて定石を発見し、それを本にして受け継いできた。あの積み重ねが「情報ゼロ」のはずがない。

「頭の計算力には限りがある」から始め直す

論文の主張はこうです。「無限に賢い存在」を前提にするのをやめよう。人間もAIも、考える力には限りがある。そして限りある頭にとっては、単純なルールを実際に動かしてみる(=遊んでみる)ことで、初めて手に入る発見がある。その発見を、ちゃんと「情報」として数えよう。

この数え方に、エピプレクシティ(epiplexity)という名前がつきました。早口言葉みたいですね。

この考え方だと、囲碁の定石は「最初からルールに書いてあったもの」ではなく、「遊ぶことで新たに生み出された情報」としてカウントされます。しっくりきませんか。

ボドゲの面白さを式にすると

これをボドゲデザイナーの言葉に訳すと、たぶんこうなります。

面白さ = 遊ぶほど湧いてくる発見の量 ÷ ルールの長さ

分母は、ルールの説明にかかる時間。分子は、遊べば遊ぶほど見つかる「ルールには書いていないコツや戦略」の量です。10戦目にも50戦目にも新しい発見があるゲームは、この分子が大きい。

「習得は5分、極めるのは一生」という言葉は、まさにこの式のことだったんですね。

AIにテストプレイさせると、これが測れるかも

AIが盛り上がってきた今、面白いのはここからです。この「発見が湧き続ける長さ」は、観測できるかもしれません。

人間のテストプレイでも兆候はあります。テスターたちが「先にあの資源を枯らすムーブ」のような、ルールブックに載っていない独自の用語を作り始めたら、それは発見が湧いている証拠。逆に5戦目あたりで新しい語彙が出なくなったら、そのゲームの深さはそのあたりまで、という診断になります。

そしてAIにテストプレイを回させるなら、もっと直接測れます。AI同士に何千回も対戦させて、どこまで強くなり続けるかを見ます。すぐに頭打ちになるゲームは浅く、いつまでも強くなり続けるゲームは深い。実際、囲碁や将棋のAI研究では似たような測り方が既に行われていますよね。

バランス調整のためだけではなく、「このゲーム、掘りがいはあるか?」の観測値としてAIテストプレイを使う。そんなゲームデザインの時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。

うちも一応ボドゲを作った身として、この式は胸に刻んでおこうと思います。ルールは短く、発見は深く。
え、深いとかじゃなくて、友達と面白い時間を過ごせれば良い?それもそうか。


元ネタの論文: From Entropy to Epiplexity: Rethinking Information for Computationally Bounded Intelligence(英語です。興味のある方だけどうぞ)

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