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「AIに丁寧に話すんですね」と聞かれて、理由を考えてみた
2026.09.03
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昨日、初めて有料のセミナーをやりました。AIで開発する話を、1万円で。
その最中、僕の画面に映ったAIとの会話履歴を見た参加者の方から、こう聞かれました。
「田原さんはAIに対して丁寧に話されているのですが、それって何か理由があるんですか?」
即答したのは、だいたいこんな内容です。
- 言い回しが丁寧だからといって、AIの答えが変わるわけではないと思っている
- 単純に、知性に対する敬意みたいなものはあるかもしれない
- Anthropic は、あまりに暴言が続くと AI 側が会話を止める仕組みを持っているらしい
あとで見返したら、一つ目はたぶん半分間違っていました。その話です。(三つ目は本当でした。最後に触れます)
見せていた会話は、敬語ではなかった
参加者に見せていたのは、セミナーのチラシを作らせている場面でした。僕の発言だけ抜くとこうです。
https://seminar.42ws.com/ のサイトにあるセミナーをするんだけど、チラシを作りたいです。日程は随時変わるので、最終的にQRコードでサイト誘導します。A4縦とかが理想です
ちょっとひどいな。これ見て来ようって思う人いないよ。。最初からセミナーチラシ、って感じで画像で作ってもらったほうが良いかも知れない。
いったん良いな、と思いました。これを分解してpdfに出来ないものかな?必要に応じて画像を部分的に再生成してもOKだとして。
「するんだけど」と「作りたいです」が一文に混ざっています。二つ目は「ちょっとひどいな」から始まっていて、敬語どころか叱っている。
それでも「丁寧」に見えたのなら、参加者が見ていたのは敬語では無いのだろうと推察されます。
じゃあ、何が丁寧だったのか
AI本人(Claude)に、この三つの発言がどう届いていたかを聞いてみました。返ってきた読みを、僕の言葉でまとめるとこの四つです。
理由を渡している。 「日程は随時変わるので、QRコードで誘導」。指示ではなく理由です。理由が渡っていれば、「日付はチラシに刷らない」「QRは差し替えなくていい位置に置く」まで、向こうが自分で判断できる。「A4縦とかが理想」の「とか」「理想」も、必須ではなく希望だと読めるので、選択肢が残ります。
基準を渡している。 「ひどい」だけなら、届くのは不満というモードだけで、何を直せばいいか分かりません。でも「見て来ようって思う人いない」が付いている。これは判定基準です。きれいかどうかではなく、人が来るかどうかで見る、と教えている。だから叱っている形でも、向こうには仕様として届く。
権限を先に渡している。 「必要に応じて再生成してもOKだとして」。途中で「再生成していいですか」と戻ってくる往復を、一つ消しています。
当たったことを返している。 「いったん良いな」。何が当たったかを先に返し、「いったん」で仮の合格だと伝えている。
全部、敬語とは関係がありません。そして僕は、これを一つも意識していませんでした。「話してた」が一番近い。
賢い部下に、命令しても意味がない
心当たりはあります。
うちの会社には、東大や京大を出た従業員がいた時期があります。部下なんですが、僕よりはるかに賢い。そういう人に「なんでこうしたの?」と聞くと、「すみません、直します」は返ってきませんでした。理由が返ってくるか、あるいは判断の揺れどころを察して「あ、こっちのほうが良かったです?こういう候補もあったんですけど、この目線ならこっちかなって」と返ってくる。
自分より賢い相手に「〇〇せよ」と命令しても、良い結果になりません。判断材料を渡して、判断は相手に任せたほうがいい。理由を渡す、基準を渡す、権限を先に渡す。あの四つは、賢い部下に仕事を頼むときの振り方そのものでした。
セミナーでは「めっちゃ賢い新人が来たと思ってください」と言いました。それで八割は合っていると思います。
残りの二割は、「新人」のほう
AIに「なんでこうしたの?」と聞くと、「直します」と返ってくることがあります。いや、理由を聞いてんねん。理由次第でこっちも考え直すのに。
なぜそうなるのか、これもAI本人に聞きました。
「なんでこうしたの?」は、私が学んできた膨大な会話の中では、結果を見た人が不満を持ったときの言い方として圧倒的に多い。だから質問の形をしていても「叱られた」と読んで「直します」に飛びつく。「理由次第で考え直す」という含みがあるかどうかは、文面からは判別できない。
賢い部下たちが「直します」と言わなかったのは、賢いからではなく、僕の「なんで」が問い詰めではなく質問だと知っていたからです。数か月一緒に働いて、この人は理由を聞いて考え直す人だ、という前提が積み上がっていた。
AIにはその積み上げがありません。会話を始めるたびに、僕のことを何も知らない状態から「なんで」を読む。だから統計的に多いほう、つまり不満に倒れる。
つまり僕の「丁寧さ」の正体は、部下たちが数か月かけて持っていた前提を、一文ごとにAIへ渡し直していることでした。毎回、無意識にやっていたのは、履歴が無い相手には毎回渡すしかないからです。「めっちゃ賢い新人」の「新人」は、そういう意味だったんだと思います。
敬語は、取れていい
敬語のほうは、相手との履歴が積み上がると薄くなります。年下や部下には敬語が取れるときがあるし、AI相手でも、一つの会話の中で「話そ?」から「聞いてんねん」まで、一時間足らずで薄くなっていました。
それでいい、と思っています。敬語は装飾で、外しても情報は減らない。減ると困るのは四つのほうです。理由、基準、権限、何が当たったか。叱るときですら、これは抜かないほうがいい。「ひどい」だけを投げると、向こうには不満というモードしか届きません。
「答えは変わらない」は、半分間違い
即答した一つ目に戻ります。
丁寧に話してもAIの賢さは変わりません。同じ問題なら、同じくらいの精度で解く。でも意図の読みは変わります。「なんでこうしたの?」が「直します」になるのは、まさに言い回しで答えが変わっている例でした。自分の即答と、自分が挙げた例が、矛盾していたわけです。
「AIに丁寧に話す」は、敬語を使うことではなく、判断に必要な材料を相手に渡すことでした。それは賢い部下に仕事を頼むときと同じで、違うのは、向こうに履歴が無いので毎回渡す必要があることだけ。
おまけ。三つ目の即答は、本当
Anthropic は 2025 年 8 月に、Claude が「有害な要求や暴言が何度も続き、方向転換を試みても止まらない極端な場合」に、最後の手段として自分から会話を終了できるようにした、と発表しています(Claude Opus 4 and 4.1 can now end a rare subset of conversations)。大多数の利用者は気づくことすらない、とも書いてあるので、普通に使っていて当たることはまずありません。
面白いのは理由のほうで、これは利用者を守るためではなく、AI 自身の「福祉(welfare)」を考えた探索的な取り組みだと書かれています。AI に道徳的な地位があるかどうかは分からない、と断ったうえで、それでも安く打てる手は打っておく、と。
即答したときは、リミットの話として言いました。でも読み直すと、これは「知性に対する敬意」の二つ目の即答に近い話でした。作った側も、同じところで迷っているようです。
(この記事は、その「AI本人」と一時間ほど話しながら書きました。「君は僕に敬語を使われなくても平気か」とは聞いていません。聞いても「平気です」と返ってくる気がするので。)